写真オタが非オタの彼女に写真(日本限定)世界を軽く紹介するための10冊

アニオタが非オタの彼女にアニメ世界を軽く紹介するための10本

あわせてお読みいただければ幸いです。

まあ、どのくらいの数の写真オタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、「オタではまったくないんだが、しかし自分のオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、 その上で全く知らない写真の世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、写真のことを紹介するために見せるべき10冊を選んでみたいのだけれど。(要は「脱オタクファッションガイド」の正反対版だな。彼女に写真を布教するのではなく相互のコミュニケーションの入口として)

あくまで「入口」なので、金額的、時間的に過大な負担を伴う絶版、自費出版は避けたい。できれば書店で、少なくとも図書館で借りられる程度にとどめたい。
あと、いくら写真的に基礎といっても古びを感じすぎるものは避けたい。
写真好きが『木村伊兵衛』は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。
そういう感じ。

彼女の設定は

写真知識はいわゆる「篠山紀信」的なものを除けば、アラーキー程度は知っているサブカル度も低いが、頭はけっこう良いという条件で。

まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。

生きている(佐内正史
まあ、いきなりここかよとも思うけれど、「佐内以前」を濃縮しきっていて、「佐内以後」を決定づけたという点では外せないんだよなあ。写真集には珍しく重版掛かってるし。ただ、ここでオタトーク全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。
このつかみづらい作品について、どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報を彼女に伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション能力」の試験としてはいいタスクだろうと思う。

Hiroshi Sugimoto(杉本博司)、Lilly(志賀理江子
アレって典型的な「オタクが考える一般人に受け入れられそうな写真(そうオタクが思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのものという意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには一番よさそうな素材なんじゃないのかな。
「写真オタとしてはこの二つは“アート”としていいと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。

うたたね(川内倫子
ある種の日常写真オタが持ってるスクエアの憧景と、リトルモア監修のオタ的な写真へのこだわりを彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにも川内倫子的な
「退屈な日常の安楽さ」を体現するスプーンにもられたタピオカ
「退屈な日常の残酷さ」を体現する鳩の死骸
の二つをはじめとして、オタ好きのする被写体を一冊にちりばめているのが、紹介してみたい理由。

ID400(澤田知子
たぶんこれを見た彼女は「ただの証明写真だよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い。
この系譜の作品がその後続いていないこと、これがドイツでは主流派で、アメリカなら大規模な個展を開けるぐらいで、それが日本のスタンダードになってもおかしくはなさそうなのに、日本国内でこういうのが流行らないことなんかを非オタ彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。

Iam(岡田敦)
「やっぱり写真は社会を切り取らないとね」という話になったときに、そこで選ぶのは「石川直樹」でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、この作品にかける岡田の思いが好きだから。
ストレートにリストカッターを曝け出す、っていう無防備さが、どうしても俺の心をつかんでしまうのは、その「真実」ということへの諦めきれなさがいかにもオタ的だなあと思えてしまうから。
岡田の執念を俺自身は偏執的とは思わないし、そこで演出しても仕方ないだろうとは思うけれど、一方でこれが石内都や大橋仁だったらきっちり自分の作品にしてしまうだろうとも思う。
なのに、感想をくれたリストカッターの読者にインタビューをして、一冊の本にしてしまう、というあたり、どうしても「自分の物語を形として突き詰めたいオタク」としては、たとえ岡田がそういうキャラでなかったとしても、親近感を禁じ得ない。作品自体の高評価と合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。

センチメンタルな旅・冬の旅(荒木経惟
今の若年層でセンチメンタルな旅・冬の旅を見たことのある人はそんなにいないと思うのだけれど、だから紹介してみたい。
少女ヌードで話題になった前の段階で、荒木の哲学とか写真集の構成・演出とかはこの作品で頂点に達していたとも言えて、こういうクオリティの作品がたいていの大型書店では置いてあるんだよ、というのは、別に俺自身がなんらそこに貢献してなくとも、なんとなく写真好きとしては不思議に誇らしいし、いわゆる奇抜なファッションのキレた姿しかアラーキーを知らない彼女には見せてあげたいなと思う。

にっぽん劇場写真帖(森山大道
森山の「スナップ」あるいは「ノーファインダー」をオタとして教えたい、というお節介焼きから見せる、ということではなくて。
「終わらない日常を毎日生きる」的な感覚がオタには共通してあるのかなということを感じていて、だからこそ前の木村伊兵衛賞がスナップでしかない梅佳代の『うめめ』以外ではあり得なかったとも思う。
「終わらない日常を生きる」というオタの感覚が今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の源はにっぽん劇場写真帖にあったんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、単純に楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。

In My Room(鷹野隆大
これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。
こういうトランスジェンダー風のポートレイトをこういうかたちで写真集化して、それが非オタに受け入れられるか気持ち悪さを誘発するか、というのを見てみたい。

small planet(本城直季
9冊まではあっさり決まったんだけど10冊目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的に本城を選んだ。
佐内から始まって本城で終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、作品手法がネット上どころか写真論壇でも話題になった作品でもあるし、紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいい作品がありそうな気もする。

というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10冊目はこんなのどうよ、というのがあったら教えてください。

「駄目だこの受賞作家しか選ばないチキンは。俺がちゃんとしたリストを作ってやる」というのは大歓迎。
こういう試みそのものに関する意見も聞けたら嬉しい。